No4.バザリ(BASARI)
バザリ 箱絵

はじめに


 ボードゲームに抵抗感を持つ人もいるもので、私の叔父がそうなのですが、遊びに誘ってもおもちゃだと思って全く乗り気ではありませんでした。そんな叔父がやってみて「これは面白い」と言ってくれたゲームが今回紹介する『バザリ』です。『バザリ』にはボードゲームに抵抗感がある人を引き付け、ここから更に他のボードゲームに発展させていく要素が含まれています。そうしたことをこれから紹介していきたいと思います。

原題BASARI
デザイナーReinhard Staupe
(ラインハルト・シュタウペ)
メーカーF.X. Schmid
(F.X. シュミット)
版元New Games Order
(ニューゲームズオーダー)
発売年日本語版:2016年
 (原版1998年、ドイツ)
プレイ人数3~5人
2人プレイ不可
公称プレイ時間約45分
対象年齢10歳以上
定価3780円
購入価格2019年4月に駿河屋で2980円で購入
言語依存なし
相互干渉
(インタラクション)
あり(バッティング、交渉など)
公開情報宝石所持数、勝利点
非公開情報なし
ルールブック6ページ
ルール難度少し簡単(基本は双六)
個人的評価8点(10点満点)

1.ルール概要

 『バザリ』は東洋の宝石商となって豪商を目指すゲームで、内容は双六の亜種のようなものです。ダイスを振って自分の商人駒を移動させ、タイルの効果を発動しながらボードを周回し、勝利点を稼いでいきます。
 ここではまず、ダイスによる移動とアクションタイルの選択、そしてタイルのバッティングが起こった時に行われる行動の権利を巡る取引について説明していきます。
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(各プレイヤーは4色の宝石を3個ずつ、3枚のアクションタイル、ダイス、スタートマーカー、スコアマーカー、そして商人駒を持ってゲームを始めます。)
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(4色の宝石はボード中央にストック置き場が用意されています。)
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(アクションタイルは3種類あり、それぞれの意味については後述します。)

 a)ダイスによる移動
 『バザリ』は双六の亜種のようなゲームと前述しましたが、普通の双六と明確に違う点があります。それは各人のターンがないことです。通常であれば順番に手番が回ってきてその度にダイスを振って自分の駒を進めていくと思いますが、『バザリ』では各プレイヤーが一斉に手持ちのダイスを振って駒の移動を行い、マスに止まった後の処理も各人一緒に行います
 また、同一のスタートとゴールがないことも通常の双六と違う点です。各人ボード上の任意のマスにスタートマーカーを置き、そこから駒の移動を行います。ダイスを振って駒を移動し、スタートマーカーの場所まで戻ってくると1周したことになり、2週目が始まります。誰かが1周した時点でまだゴールしてない人は今いる地点にスタートマーカーを移動させ、そこを新たなスタートにして1周した人と同時に2週目を開始します。
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(スタートマーカーに辿り着く前に2周目が始まった場合、下の画像のように商人コマの現在位置にスタートマーカーが移動し、そこが2周目の開始位置になります。)
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 b)アクションタイルの選択
 ダイスを振り駒を移動させた後は、3枚のタイルの内どれを出すかを決め、各プレイヤーが一斉にタイルを公開します。この時公開したタイルによって宝石を獲得したりダイスを再び振ったりするのですが、同じタイルを出したプレイヤーが2人いた場合は行動の権利を巡る取引が行われます(取引については後述)。なお、同じタイルを3人以上出していた場合には取引は行われず、同じタイルを出していた3人以上のプレイヤーは誰もそのターンにアクションタイルの行動を行うことが出来ません。
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(アクションタイルは3種類あり、左から宝石を手に入れる、勝利点を手に入れる、ダイスを再び振る効果を発動します。)
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(マスに書いてある数字は手に入る勝利点を、宝石の絵は手に入る宝石の種類と数を示しています。)
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(ダイスを再び振る場合は、追加で駒を進めたうえに、「6-出目」の勝利点を獲得します。この場合、6-3=3勝利点を獲得できます。)

 c)行動の権利を巡る取引
 同じタイルを2人のプレイヤーが出していた場合、行動の権利を巡る取引が行われます。取引は、行動の権利の代わりとして、手持ちの宝石を任意数相手プレイヤーに提示していく競りの形で行われます。その時点で勝利点が上回っているプレイヤーから行動の代価を提示し、その代価に納得出来なければ、相手が提示した以上の宝石を提示し返すことを繰り返していきます。代価に納得したプレイヤーはその宝石を受け取る代わりに行動の権利を放棄し、宝石を渡したプレイヤーは公開したタイルの行動を行います。
 なお、最初から代価を提示しないことを選択することも可能で、その場合、提示されなかったプレイヤーは代価を払わずにタイルの行動を行うことが出来ます。
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(宝石の価値は赤、黄、緑、青の順で高くなります。)
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(1つの価値よりも数が優先されるので、赤1つよりも青2つの方が価値が高いと見做されます。)
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(出した宝石を引っ込めて新たに提示し直すことも可能で、赤1つに青2つを提示された場合、青2つ以上の価値になるのであれば、赤を引っ込めて緑1つと青1つなど、好きな組み合わせと数を提示し返すことが出来ます。)
 
 d)勝利条件
 誰かが3周するとでゲームが終了し、最も勝利点を獲得したプレイヤーが勝利します。『バザリ』における勝利点は、アクションタイルで「勝利点を手に入れる」を選択する他は、周回ボーナスと周回ごとの決算時の宝石ボーナスで獲得出来ます
 周回ボーナスは1周したプレイヤーに手に入る勝利点で、10点獲得出来ます。誰かが1周したターンの間に1周出来たプレイヤーは、行動順に関わらず全員が獲得出来ます(タイル効果でダイスを再度振り1周した場合も含む)。
 宝石ボーナスは誰かが1周する度に行われる決算時に、種類ごとに最も多くの宝石を持っていたプレイヤーに手に入る勝利点で、宝石の種類によって獲得出来る勝利点は異なります。この時勝利点を手に入れたプレイヤーは、勝利点を得た種類の宝石を次の周回が始まる前にストックに3個返却しなければなりません。なお、宝石の最多所持者が複数いたときは勝利点がプレイヤーの数に応じて折半され、ストックに戻す個数も3個から2個になります。
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(宝石ボーナスはボードに記載されていて、赤14点、黄12点、緑10点、青8点獲得出来ます。)

2.手番の行動まとめ

 では、手番の行動をまとめてみます。
 ①:ダイスによる移動(必須)
 各プレイヤーが一斉にダイスを振り、出た目の分だけ自分の駒を移動させます。
 ②:アクションタイルの選択(必須)
 止まったマスの内容を確認し、3つのタイル(宝石・勝利点・ダイス)の内1つを選択して伏せて出し、各人一斉に公開します。
 ③:行動の権利を巡る取引(任意)
 2人以上のプレイヤーが同じタイルを選択していた場合、行動の権利を巡って宝石の取引を行います。取引を辞退することも出来、その場合辞退しなかったプレイヤーが行動の権利を獲得します。3人以上が同じタイルを出していた場合、そのプレイヤー全てがそのターンの間、取引も行動も行うことが出来ません。

3.ルール難度:少し簡単(基本は双六)

 繰り返しになりますが、基本は双六で、行うこともタイルを出すだけ、取引は手持ちの宝石を出すだけなので、難しいことは特にありません。ルール自体は複雑ではなく、その行動に対する思考が複雑なゲームだと思います。何のタイルを出すか、宝石をどこまで払うか、全体を見渡す力と相場観が求められます。ルールに従ってゲームをするだけなら幼児でも出来る気がしますが、ゲームの内容を理解した上でプレイすることは幼児には難しく、対象年齢通り、小学生中学年以上が望ましいと思います。
 
4.言語依存:なし

 文字はなく、全てがイラストと数字で表現されています。

5.相互干渉:あり(バッティング、交渉など)


 ダイスによる移動以外の全ての行動が、他のプレイヤーと関わりがあります。

6.プレイ人数による違い(5人では4枚目のタイルを使用)

 『バザリ』は3,4,5人でのプレイが可能です。人数によって違いが生じるのは、バッティングによる取引の発生と3人以上のタイル被りによる取引の無効です。
 バッティングしたときに取引が発生するというゲームの性質上、3人では場合によってですが、タイルが3枚しかないため、4人では必ず取引が発生します。4人より5人のほうがより取引が生まれそうですが、5人では4枚目のアクションタイルとして「小商い」と呼ばれるタイルが導入されます。
 「小商い」は必ず行動出来るタイルで、バッティングしても取引が発生せず、3人以上が出していても無効になりません。ただ、1人だけが出していた場合と、2人以上が出していた場合では効果が異なり、単独の場合は手持ちの宝石1つをストックに戻して好きな宝石2つを手に入れることが出来ますが、複数の場合は好きな宝石1つを手に入れるだけになります。
 なお、3人以上のタイル被りによる取引の無効は、3人プレイでは全員が行動出来ないだけですが、4人、5人プレイでは被らなかった人だけが行動出来るという違いが生じます。個人的には出し抜き感が味わえる4人以上プレイの方が好みです。
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(「小商い」のタイルを見ると、単独か複数かによる効果の違いが分かるようになっています。)

7.『バザリ』の入手方法(日本Amazon、駿河屋など)

 一旦は絶版になってしまいましたが、現在のものは2016年に販売されたばかりなので、今のところは日本Amazon、駿河屋など大手のショップで通常価格、場合によってはセール価格で購入することが可能です。すごろくやなど専門店でも一時的に品切れ等はあると思いますが、予定があれば再び入荷されるのではないかと思います(2019年8月現在)。

8.個人的評価:8点(10点満点)

 「はじめに」でも述べましたが、『バザリ』は私の叔父(50代後半)が気に入ってくれたゲームです。遊ぼうと誘っても最初は嫌な顔をしていましたが、やっている途中から楽しそうなのが分かり、終わった後「これは面白い」と言ってくれました。『バザリ』にはボードゲームに抵抗感がある人を引き付ける要素があるのです。では、その抵抗感を和らげてくれた物とは何だったのでしょうか。
 叔父にとって良かったのは双六がルールの基本だったことです。全く新しいことを覚えてプレイするのは誰しも抵抗があると思いますが、少しでも聞き覚え、見覚えのある事ならハードルはぐっと下がります。『バザリ』は基本がダイスを振って駒を進めコースを周回するということなので、ゲームとして受け入れやすかったのだと思います。
 基本のルールが親しみやすかっただけでなく、内容が面白かったことも受け入れてもらえた理由です。『バザリ』の面白さはいくつかの要素で構成されていますが、止まったマスに応じて何のタイルを出すか考えるところに最大の面白さがあると私は思います。単純に考えればそこで得られる最大のもの、勝利点が5、宝石が赤い宝石3つというマスなら宝石を狙いたいものです。しかし、他のプレイヤーが宝石を選択していればバッティングが生じてしまうので、勝利点を選択した方が得かもしれません。相手がどんなマスに止まっていて、何のタイルを出そうとしているか考える必要があります
 宝石でも勝利点でもなく、再びダイスを振るという選択も有りです。最大でも勝利点が5しか手に入らない(6-1=5)ので、他のタイルに比べると旨味が少ないように見えますが、再び移動することで周回ボーナスを単独で受けられる可能性を高めることが出来るので、宝石も勝利点も美味しくないマスに止まったとき、または2つともバッティングが生じそうな時には狙う価値が十分にあります。上述したように、何のタイルを出すかはそう単純ではありません。
 タイルを選択する際には、自分と相手が止まったマス以外に、お互いの宝石所持数も考える必要があります。何故かと言えば、1周が終わる毎に宝石所持数によるボーナスが入りますが、ボーナスによる勝利点は1つでも数が多いプレイヤーにしか入らないからです。そのため、「これは絶対バッティングするな」「自分のマスは宝石の旨味が少ないな」と思っても、相手が宝石を選択し、それを獲得したら最多になってしまうという場合、敢えて自分も宝石を選択し、バッティングを起こすということが必要になってきます。つまり、宝石タイルを出すか出さないかの判断基準の大きな部分をお互いの宝石所持数が占めることになるのです。
 バッティングが生じた際には、どの宝石をどのくらい相手に提示するか考えなければなりません。価値が高いのは赤い宝石ですが、赤い宝石がいくらあっても最多にならなければ無価値です。最多にならない赤い宝石よりも最多になる青や緑の宝石の方が価値があります。そこで、最多にならないまま無駄にするぐらいならバッティングの際に赤い宝石を放出して行動の権利を獲得する方が得になるという考えが生まれます。価値が高いというのはバッティングの際とても重要です。相手はそれ以上の価値を提供出来なければ、その行動の権利を譲るしかないからです。ただ、考え無しに大盤振る舞いしていると、それで相手が赤最多になってしまうということもあるかもしれません(相手が赤最多になっても勝利点でトップにならないと踏んで、または勝利点トップの人を赤最多にしないためにそれ以外の人に赤い宝石を与えてしまうというのは戦略上有りだとは思います)。これは赤い宝石に限った話ではなく、この宝石をどこまで出しても良いのか、相手に与えても自分が最多所持数になれるのか、それを渡すことで相手が最多所持数にならないのかなど、慎重に考える必要があります
 まあ、そこまで真剣に考え尽くさなくても良いのですが、考える要素があるというのは楽しいものです。ルールが難しくて「これどうなるんだっけ」と頭を悩ませるのは余り楽しくありませんが、誰でも理解出来るような単純なルールでこれだけ深く考えさせてくれるというのは素直に凄いと思います。
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(個人的には宝石を集めるのが一番強いと思いますが、皆が皆そう考えていると3人以上のバッティングが続発してしまい、宝石以外の人が1人行動して有利になってしまいます。)
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(宝石を集める場合にも、宝石は4種類あるので、価値の低い宝石で複数首位を目指すのか、価値の高い宝石をひたすら集めるのか、全ての宝石を満遍なく集めるのか考えなければなりません。1週目で宝石所持数の首位が取れなくても、首位のプレイヤーは最多宝石を3個ストックに戻さなければならないので、2週目、3週目で首位を取ろうと考えることも出来ます。)
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(ついつい価値の高い物をたくさん集めたくなりますが、ゲームの目的は勝利点を集めることということを忘れないようにしなければなりません。)

 ちなみに私の叔父は、『バザリ』をした後は抵抗感を示すことなくいくつかのボードゲームを一緒にプレイしてくれました。『バザリ』でボードゲームが大したことないおもちゃのような物という偏見が取れたことが一番ですが、バッティング・交渉・手札・勝利点など、ボードゲームをする上で基本となる概念を満遍なく学べたことも大きいと思います。家族が言うには、お金と勝利点が分かれているなど、複数の単位があるゲームは直感的に難しいのだそうで、そういう意味で『バザリ』は数字が勝利点しかなく、細々としたタイルもなく、相互干渉もあり、他のゲームの橋渡しとなれる実に優れたゲームだと思います。
 では、『バザリ』の難点は何かというと、そんなに思い当たることもないのですが、強いて挙げればダイス運に左右されることが多少あるということです。ダイスを使うゲーム全般に言えることだと思いますが、ダイス運に左右され、1が連続して出たり、その反対に6が連続して出るということがあり、1が連続するとタイルで再びダイスを振っても周回ボーナスを狙うのは難しくなります。勿論宝石の良いマスに止まれるかというのもあると思いますが、宝石は価値が低い宝石にも色々使い道があるので、ダイス運が影響してくるのは個人的には周回ボーナスだけだと思います。その周回ボーナスも、1周終わる毎にプレイヤー毎の差がリセットされ、対等に2周目が始まるので、他のダイスを使うゲームに比べれば、ダイス運の影響は実に限定的だと思います。
 後は、良くも悪くもですが、直接的に相手の妨害をする手段がないということでしょうか。相手が優位に立った際に、相手の勝利点を減らす手段はなく、自分の勝利点を伸ばすしかありません。ただ、勝利点は減らせませんが、宝石は取引で上手く奪うことも出来るので、逆転できるかはやり方次第だと思います。それでも大差がつきすぎた後に一発逆転というのは難しいゲーム性だと思いますが、1時間掛からないゲームなので、死に体のまま長時間続くということにはなりません。
 
おわりに

 『バザリ』は元々F.X.Schmid(F.X. シュミット)から1998年に発売されたゲームで、しばらく絶版になっていました。再販されなければ、ヤフオクなどで定価以上の物を購入しない限り手に入れることが出来ませんでしたが、New Games Order(ニューゲームズオーダー)が2016年に再版してくれたお陰で、簡単に手に入るようになりました。以前レビューした『ムガル』もそうでしたが、過去の名作がこうして手軽に購入できるのは後発組として大変ありがたいです。こうした掘り起こしがなければ、私が『バザリ』を購入することもなかったと思いますので、過去の名作との橋渡しをして下さるメーカーさんには本当に感謝しかありません。最近は日本のメーカーだけでなくフランスのSuper Meeple(スーパーミープル)も『アメンラー』など名作の掘り起こしをしていますが、絶版になったボードゲームを適正価格で買えるように、こうした動きがもっと進めばいいなと個人的には思っています。